一般的にガソリンエンジンでは燃料と空気の混合割合(これがAir Fuel Ratio:A/F比)に最適値があり,理想状態では14.7(空気:燃料=14.7:1),出力重視だと12~13と言われている(ちなみに最近の乗用車は排ガス対策等で16以上らしい)。
で,この値を目標にインジェクションセッティングをしていくわけだが,そのためには正確に計測しなければならない。手ごろな価格で市販されているA/F計はナローバンドセンサーと言われるものが使われていて,温度依存性が大きい(すなわち全開時とアイドル時で計測値に誤差がある)ため,正確な計測には向いていない。全域で信用できる値を計測するためにはワイドバンドセンサーと言われるセンサーを使用しなければならず,なかなか個人が手を出せる代物ではなかったが,最近では,ずいぶんと低価格のものが出てきているので,プライベートセッティング屋(?)も実走での勘だけに頼らなくてもよくなってきたのが嬉しいところだ。
まずは,お手軽に買えるものにどんなものがあるかを探さなければ。Googleを頼りに探し出したのは,二輪に載せられて手の届く範囲のものでは以下の2種類だ。
両者とも高精度ワイドバンドA/Fセンサーを採用しているため廉価版にあるような温度依存性もなく正確なA/F比を計測することができるぞ。
さてどちらにするかだが,ここでポイントになってくるのは両者ともデータロガー機能が付いているって事だ。二輪は四輪と違って実走セッティング(だって,機械にかけたらお金を取られるじゃないか。それは最後の詰めにとっておこう。)の際に助手席にセッティング要員をのせるわけにはいかないので,データロガー機能はとても便利そうだ。その点を比較するとWideBandCommander(ワイドバンドコマンダー)は0.1sec間隔のサンプリングで10分間のロギング可能でありWBOシリーズに勝っている。WBOシリーズより価格は高くなるが,え~い決定だ(USA通販ショップから海外通販で直接購入して少しでも安く仕上げよう)。
2005-12-11追記
WBOシリーズに大容量内蔵メモリを搭載したWBO2A1が登場。これでスペック的にはWideBandCommanderを越えた! 誰か試してみない?
項目 | Wideband Commander | WBO2A1 | 備考 |
---|---|---|---|
A/Fセンサー | Bosch LSU4 | Bosch LSU4.2 | どこが違うんだろう? |
データサンプリング | 0.1sec固定間隔 | 0.01~1secで可変 | |
内蔵メモリへのデータロギング | A/F、スロットル開度、回転数、接点出力状態? | A/F、回転数、5V電圧入力×3、熱電対入力 | |
ロギング時間 | 約10分(メモリ256kB) | 約60分(メモリ1MB) | WBOのロギング時間は0.1sec間隔でのサンプリングの場合 |
入力信号 | A/Fセンサー、回転数、5V電圧×2 | A/Fセンサー、回転数、5V電圧×3、熱電対 | それぞれ5V入力1系統をスロットル開度に割り当て |
出力信号 | 4-20mA/0-5V可 接点出力 |
0-5V×3 | |
本体サイズ | W102×D62×H25 | W180×D80×H30 | WBCは長辺の1カ所のみにケーブル接続だが,WBOは短辺の両側にケーブルがあるのでさらに占有スペースが大きくなりそう |
PC接続 | USB | RS232C | |
解析ソフト | なし | オプション | WBOは解析機能(グラフ表示,マトリックス表示)については有料 |
価格 | ¥60,000前後 | ¥65,000前後 | WBOはオプション内容による |
以下がWideBandCommander(ワイドバンドコマンダー)のパーツ一覧だ。このキットは汎用品なので各種接続に関しては英文マニュアルとCBR1000RRのサービスマニュアルをよく読んでポイントを見つけだしていかなければならないぞ。
これが本体だ。サイズは幅102mm×奥行き62mm×厚さ25mmだ(コネクタ部含まず)。A/F比測定機能はレンジ10-18(多分)で,データロガー機能は以下のとおりだ。
A/Fセンサおよび専用ケーブルだ。ケーブル長は約1.7mあるので二輪に付ける場合はまず問題ないだろう。
測定値の確認用だ。ケーブル長は約1.4m,どこにどうやって取り付けるかがポイントだな。
電源・回転数検出・各種データIN/OUT用のケーブル各種だ。ケーブル長は約1.1~1.3mだ。
9V電源アダプタは12Vのない車両用,もしくは,ユニット本体を車両から取り外した場合の電源供給用だ。
センサー取付口(材質:鉄っぽい)は,エキパイに口がない場合に加工屋さんに溶接で取り付けてもらおう。ここは一つ奮発して接続口の最初から付いてるエキパイを買い込めばいいんだ。
ごく一般的なUSBケーブルだ(ユニット側は小型タイプ)。
ステッカーがたくさん付いてるのが嬉しい。
WideBandCommanderは汎用品で各車種別の専用パッケージはないので,じっくり考えながら取り付けていく必要がある。さぁそれでは,CBR1000RRに取り付けていくとするか。
付属のコネクタは防水仕様になっていないため対策が必要だ。雨天走行や洗車時に水が入ると計測ミスや走行不能になる可能性ありだ。詳細はCBR1000RRライディングレポート(第一回ツーリング)参照のこと
CBR1000RRはあまり積載能力のないバイクだけに設置可能場所は限られている。やはりリアシート下の収納スペースにおくしかないか。
Multi-Function Connectorは1本でいろんなデータを取り扱うが今回使うのは一部分だけなので,使わない邪魔なケーブルは取り外してしまおう。でも,後で元の状態に戻すときのことを考えてココに記録を残しておこう。画像の向きにおいた状態で表ととおりであり,今回使用するのはデータロギングスイッチとスロットルポジションの2本だけだ。
位置 | 手前 | 奥 |
---|---|---|
上 | 茶:データロギングスイッチ | 黒:データ出力(不要) |
中 | 白/オレンジ:機器駆動出力(不要) | 白/緑:データ出力(不要) |
下 | 灰:アナログ入力1(スロットルポジション) | 白/黄:データ出力(不要) |
スロットルポジションは車体左側のThセンサの「赤地に黄ライン」ケーブルから分岐(左画像)だ。データロギングスイッチは汎用のスイッチを購入し,ステアリングダンパーのカバーに取り付け(中央画像),12V電源は車体左側ミドルカウル先端のリレーボックスの「黒地に赤ライン」ケーブル(ヘッドライト用)から取ってみた(右画像)。
このコネクターの用途は赤(+12V),黒(GND),黒/白(GND)だ。GNDはバッテリーのマイナス端子へ,+12Vはバッテリー横にある6Pオプションカプラの「白地に黒ライン」ケーブルから分岐すればOKだ。
このコネクターの用途は回転数検出(オレンジ)とアナログ2入力(黄地に赤ライン)だ。回転数検出は,マニュアルには「イグニッションコイルの "power side" から分岐せよ」と書いてあるので,車体右側のイグニッションコイル用のカプラの適当な線(「黒地に白ライン」ケーブルは+12Vなのでこれ以外)から分岐しよう(画像右端のカプラだ)。
また,アナログ2入力だが,とりあえずの使用予定はないので外しておこう(どうしてもというなら,インマニ圧力(Pb)センサは0-5V出力なので取り込めるが,ターボ車じゃないのであまりおもしろくないかもしれない)。
付属のA/Fゲージをコンビネーションメータ横に付けたんだけど,ケーブル長が足らなかったので継ぎ足す必要があった。また,照明用電源は別途取る必要があるので,上記ヘッドライトリレーの「黒地に赤ライン」ケーブルから取ってみた。
我がCBR1000RRの社外フルエキAkrapovic Evolution lineには最初からO2センサー用のボスが車体右側ステップの奥に付いているのでそこにねじ込むだけでOKだ。付属のケーブルは余って邪魔だったので思い切って切りつめて短くしてしまおう。
排気系へ空気を供給することにより排ガス中の未燃ガスを燃焼させて排ガス対策をおこなう二次空気供給ラインがCBR1000RR(というか最近のバイク全部にか)には装備されている(詳細はHONDAのwebサイトのhttp://www.honda.co.jp/tech/motor/environment/clean-technology/でも参照のこと)が,燃焼室以降で余分な空気が入ってきているって事は,エキパイ途中に取り付けたA/F計では燃焼室内のA/F値は正確に測定できないと言う問題点がある。
そこで,セッティング出す間だけでもこの二次空気供給ラインをキャンセルしてしまおうってことで,以下の部品をチョコチョコッと製作してエアクリーナーボックス内の二次空気供給用のラインに栓をしてある。
まぁ,あまり気合いの入った製作ではないので,固定はスポンジの弾力で上部の凸部に押しつけているだけというお粗末なものだがとりあえずはこれで問題なし。もしはずれた場合でも,樹脂製なら熱で溶けてエンジンにさほどのダメージを与えないだろうと言う淡い期待を込めてあるところが泣かせるぜ。
で,どれほど計測値に差があるかだが,これまた気合いの入ったデータは取っていない。低開度・低回転ではA/F値で1程度の差で,高開度・高回転では元々供給していないのか明確な差は無いようだった。いずれにしてもこの作業をやっておかないと正確なA/F値の計測はできないぞ。
無事に取り付けが完了したら次は初期設定だ。付属ソフトを立ち上げたら,メニューの「デバイス」-「本体の設定(Y)」で「デバイスセッティング」をおこなおう(画像参照)。
ここで最低限必要な設定は,
だ。「AFRスムージング」は大きくすればノイズの影響が少なくなると思われる(その分レスポンスが悪くなる)。「RPM感度」と「RPM除数」で回転数の検出をおこなうが,CBR1000RRの場合,画像の設定でとりあえずは問題なく動作している。
次に必要なのはアナログ入力の設定だ。メニューの「デバイス」-「Analog Display Setup」」で「Analog Channel 1」を選ぼう(画像参照)。
今回は「Analog Channel 1」をスロットル開度に設定するので,「Throttle Position」の左の○をクリックしよう。その下の3段ある各項目は,日本語環境では文字化けしているが,上段=開度0,中段=現在値,下段=開度100の場合の電圧値になっている。
設定は簡単で,アクセル開度0の時に上段の文字化け部分をクリック,開度100の時に下段の文字化け部をクリックすればOKだ。
以上で最低限の本体の設定は完了だ。
取り付けたスイッチのON/OFFでロギング開始/停止をおこなったら,ユニット本体のUSB端子にケーブルを差し込みノートパソコンに接続し,WideBandCommander(ワイドバンドコマンダー)付属のソフトを立ち上げ,「デバイス」-「View Session Data」を選択しよう。メモリ内のデータが一覧表示されるぞ(画像参照)。
ここで読み出したいデータをクリックすればデータ再生が開始される。
この状態で,メニューの「ファイル」-「データのエクスポート」を選択すればロギングデータのテキストファイル保存が可能だ。
それでは自作WEBアプリを使用してA/Fデータの解析をおこなってみよう。